記号論理学(数理論理学)とは何か?【大学授業紹介】
「論理」という言葉がどんな意味を指すのかの認識は人それぞれです。
私達は日常的に「論理的に正しい」とか「論理的に考えよう」などと、「論理」という単語を使っています。しかし、「論理学とはなんですか?」と聞かれて、しっかりと答えられるひとはほとんどいないでしょう。
数理的な記号を用いて、論理を構成し、証明していく学問、『記号論理学』について紹介します。
実は記号論理学の基礎を勉強すると、受験数学において直接的に役立つ場合もあるのです。
論理学とは
『記号論理学』について考える前に、その元となる『論理学』について考えてみます。
論理学とは
正しい思考過程を経て、真の認識に達するために、思考の法則・形式を明らかにする学問。
引用:大辞林
つまりどういうことかというと、日常的な会話や思考過程などについて、その法則や形式を見出し、論理的な構造を理解する学問ということです。
辞書的な意味だけではいまいちわからないかもしれないので、具体的に考えていきましょう。
「キリンは首が長い」という文章について考えてみます。この文の論理的構造をはっきりと文章にあらわして、
「すべての\(x\)について、もしその\(x\)がキリンであるなら、\(y\)なるものが存在して、その\(y\)は首であり、\(x\)は\(y\)を所有しており、この\(y\)は長い」
というようにできます。論理学というのは、上記のような論理的な構造を理解するために、思考の法則や形式を明らかにする学問なのです。
記号論理学とは
なんとなく論理学についてわかったところで、記号論理学について考えてみましょう。
記号論理学というのは、論理学でいうところの「思考の法則や形式」を、記号と数学的演算を使用して表し、思考をより厳密化する学問です。
先程の「キリンは首が長い」の例について考えてみると、
$$\forall x(xがキリン→\exists y(yは首で長い))$$
というように、記号化して表すことができます(説明の分かりやすさを重視しているため、文章を一部使用し、本来の表し方と異なることをご了承ください)。
このとき\(\forall x\)は「すべての(任意の)\(x\)について」という意味で、\(\exists y\)は「条件を満たすような\(y\)が存在する」という意味です。
つまり記号論理学とは、このような記号を使って、論理・論証の構造を明確かつ正確に表すために構築された人工的な言語のことです。形式言語(formalized language)とも呼ばれます。
記号論理学の種類
記号論理学は2部門に区別されます。「命題論理」と「述語論理」です。
「命題論理」は、\(\neg (否定), \land (かつ), \vee (または), \rightarrow (ならば) \)という4つの論理記号を扱います。
「述語論理」は「命題論理」の拡張であり、上の4つの記号に加え、\(\forall (すべての), \exists (存在する) \)という2つの論理記号を扱います。
先程のキリンの例でも上記の記号をいくつか使ったことを確認してください。記号論理学を勉強する際は、命題論理に慣れてから述語論理を勉強することになるでしょう。
代表的な証明方法
命題の証明の仕方を定めた、証明論としては3つの代表的なものがあります。
- ラッセル=ヒルベルト系
- 自然演繹
- シークエント計算
の3つです。コンピュータサイエンスなどで応用されるようになっているのは、この中でも「自然演繹」と呼ばれるもので、日本語や英語で行う論証の構造に良く対応します。「論理・論証の構造を明確かつ正確に表す」という記号論理学の目的にも沿うので、これを中心に解説していきます。
自然演繹
自然演繹には
- 古典論理(NK)
- 直観主義論理(NJ)
の2つがあります。
私達が普段用いている論理は「古典論理」と呼ばれるもので、すべての命題が真または偽のいずれかに定まる(排中律と呼ばれる)とされています。つまり「否定か肯定ですべての命題が分けられ、その中間の状態は存在しない」ということです。そんなこと当たり前だと思うかもしれませんが、直観主義論理では違います。
直観主義論理は、古典論理から排中律を除いたものです。つまり、ほとんど古典論理と違いはないのですが、すべての命題が真または偽のどちらかであるとは限らないということです。これは、コンピュータサイエンスの発展により、古典論理よりも直観主義論理のほうが適切な場合があるとわかったので生まれました。
古典論理と直観主義論理を、記号論理学の形にしたシステムがNKとNJです。両者の違いは排中律の有無でしかありません。
数学への応用
記号論理学は数学にも役立っています。今まで例にあげた論理記号を数学で見かけた人も多いでしょう。
NK(古典論理学)にいくつかの公理や推論規則を付け加えて、新たな形式体系を作ることがあります。その代表的なものが「ペアノ算術」と呼ばれるものです。
そんなことをして何が嬉しいのかと言うと、今までの数学で基本的な法則とされていた、分配の法則(\(A・(B+C)=A・B+A・C\))や交換則(\(A+B=B+A\))などを証明することができるのです。
証明の例などについては
Introduction to Peano Arithmetic – science.uu.nl project csg
を参考にしてみてください。
受験数学にも役立ちます。実は記号論理学を用いることで、軌跡・領域などの問題を分かりやすく解くことができるのです。最近良い参考書が出たので、余裕がある受験生は見てみると良いでしょう。
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